バーチャル・シンクタンク B2B営業/経営企画 2026.06.10 VRI INSIGHTS / GUIDE

バーチャル・シンクタンクとは何か — AI×専門家で「自社専用のシンクタンク」を持つという新しい選択肢

「シンクタンク」と聞いて思い浮かぶのは、政府や大企業のための分厚いレポートだろう。遠くて・高くて・汎用的な、あの研究機関だ。だが本稿が指すバーチャル・シンクタンクは、そのどれでもない。担当業界に常時張り付き、網羅・収集はAIが、検証・読み解き・貴社の商談文脈への翻訳は人間が担う――設立も採用もせずに「自社専用の常設調査機能」を持つように使う、第三の道である。

VVRI セールス・インテリジェンス・デスク/編集部 | 読了 16分 | AI×専門家 × B2B営業/経営企画
1社 FIGURE — 汎用の業界一般ではなく「貴社一社」へ。網羅はAI・検証と翻訳は人間という二層分業で常時供給する自社専用の調査機能

「バーチャル・シンクタンクとは何か」を、本稿は定義のハブとして一本にまとめる。結論を先に言えば、それは大手研究機関への発注でも、レポートの会員契約でもない。担当業界に常時張り付き、AIが情報を網羅・収集し、実在の専門家がそれを検証・読み解き、貴社の商談文脈へ翻訳して継続的に供給する――設立も採用もせずに「自社専用の常設調査機能」を持つように使うサービスを指す。正直に断っておくと、この言葉は私たちの造語ではなく、海外では専門家ネットワーク型やLLM多視点型など別の用法が先行している。だからこそ本稿は、私たちが何を指すのかをまず明確にし、従来型シンクタンク・調査会社・コンサル・AI単独との違い、そして誰がどの場面で持つのかまでを、過大な約束を避けながら順に解いていく。網羅と収集はAI、検証・読み解き・翻訳は人間――この二層の分業に、最後は穏やかに接続する。

従来のシンクタンクは「遠い・高い・汎用」だった

「シンクタンク」と聞いて思い浮かぶのは、官公庁の白書や大企業の中期経営計画を裏づける、あの分厚いレポートではないだろうか。語源どおり、シンクタンクとは本来「政治・経済・科学技術といった広範な課題を調査・研究し、解決策を提示する研究機関」を指す。大きくは省庁や日銀の傘下で政策提言を担う政府系と、政府・大企業から課題を受託して研究しフィーを得る民間系に分かれ、日本では野村総合研究所・三菱総合研究所・日本総合研究所など、その多くが大手金融・産業グループを母体とする顔ぶれが「5大シンクタンク」と呼ばれる(コンコードキャリア/コンサルフリーマガジン)。三菱総合研究所が1970年に三菱創業100周年の記念事業として設立された経緯一つを取っても、この言葉が国家・大企業・年単位の受託研究という重さをまとっているのが分かる。だからこそ、貴社の営業現場が日々抱える問いとは、最初から射程が違う。

遠い ― 顧客の前提が政府・大企業に寄っている

民間系シンクタンクのなかには、案件の多くを政府・官公庁・地方自治体が占めるとされる例もある(NSビジネスソリューション)。公共領域への強い偏りは、決して欠点ではない。大局の政策分析や大型の受託研究では、こうした機関の蓄積に勝るものはない。ただ、その設計は「明日会う相手のキーマンが、最近どんな発言をしているか」を商談の前夜に知りたい、という現場の解像度には向いていない。対象顧客の前提が、そもそも一般のB2B事業会社の日々の商談から遠いところに置かれている。

高い ― 単発前提で、常時には構造的に合わない

外に調べものを頼むと、一度きりでも相応の費用がかかる。市場調査の手法別相場では、Webアンケートで10〜20万円、グループインタビューや会場調査になると、複数回の実施を含めて百万円を超える例もある(比較ビズまとめ2024)。経営コンサルの顧問契約は月額数十万円から、大手では月100万円規模、大規模なプロジェクトでは数千万円規模に達することもあるとされる(顧問バンク等の相場まとめ記事)。いずれも事業会社が公開する相場まとめであって一次統計ではないため、幅で受け止めるのが正確だが、それでも構造は見える。担当業界に「常時」張り付き、毎週のように問いを投げたい、という使い方を前提に置くと、相談のたびに見積もりと稟議がはさまる外部委託は、継続供給とは噛み合わない。

単発調査の費用感(比較ビズまとめ2024)
数十万〜数百万円

市場調査の手法別相場の一例。Webアンケート調査は10〜20万円程度、グループインタビューや会場調査は手法・規模・実施回数によって数十万円から数百万円規模に及ぶ。出所は事業会社が公開する相場まとめ記事(比較ビズまとめ2024)であり一次統計ではないため、幅で捉えるのが正確。

汎用 ― 業界一般の像までで、一社の文脈に降りてこない

そして、相応の費用を払って返ってくるレポートも、多くは「業界一般」の像だ。受託調査や既製の業界レポートというビジネスモデルは、特定企業の特定商談に常時張り付く設計ではなく、年度計画の節目などに断続的に使うのが自然な形になる。だから、目の前の一社、担当者個人の関心や決裁の事情までは、なかなか降りてこない。「シンクタンク×IT」という業界自身の潮流については親ピラー「日本の営業生産性はなぜ低いのか」で触れたとおりで、ここでは繰り返さない。

遠い・高い・汎用は、従来型シンクタンクの欠点ではない。役割が違う、というだけのことだ。

つまりこの三つは、貶めるべき短所ではなく、機関の役割そのものに由来する性質だ。大局の政策分析や大型受託研究では、従来型が今も最も頼れる。けれど、担当業界に常時張り付き、商談に間に合う速さで、目の前の一社に効く読み解きを継続して供給する――そういう「自社専用の調査機能」は、そこにぽっかりと空いている。だからこそ、別の選択肢が要る。網羅と収集はAIに任せ、検証と読み解き、そして貴社の文脈への翻訳は人間が担う。この二層の分業をどう束ねるのかを、次に解いていく。

バーチャル・シンクタンクの定義 — 担当業界に常時張り付く「機関」とは

「シンクタンク」と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは、政府に政策提言を出す大きな研究所か、自社では雇えない高給アナリストの集団だろう。日本では1965年に野村證券の調査部門が分離独立して野村総合研究所(NRI)が生まれ、日本初の本格的な民間総合シンクタンクとされた(NRI公式沿革)。その後1970年前後にかけて大規模な研究機関が相次いで設立され、「設立して所有する重い装置」というイメージが定着していく。だが、そもそもシンクタンクの中核機能はもっと素朴だ。業界の構造変化を調べ、その意味を読み解き、意思決定に翻訳する——突き詰めればこの三つに尽きる。問題は、その機能を持つには長く「機関を一つ建てるしかない」とされてきたことにある。中小・一般のB2B企業が自前で抱えるのは、現実的ではなかった。

「バーチャル・シンクタンク」という言葉には、すでに別の使われ方がある

ここで一つ、誠実に開示しておきたいことがある。「バーチャル・シンクタンク」という言葉は、私たちの造語ではない。海外の英語圏では、私たちが確認できた範囲でも少なくとも三つの異なる意味で使われている。一つめは、信頼できる専門家を仮想的なネットワークとして束ね、複雑な課題に迅速に分析を返す「専門家ネットワーク型」(米NSIのViTTaなどが代表例)。二つめは、選ばれたリーダー同士がオンラインで自社課題を議論する「合議・イベント型」。三つめは、LLMに複数の専門家ペルソナを演じさせ、一つのテーマを多視点から検討させる「LLM多視点型」だ。いずれも海外・英語圏での用法であり、日本のB2B営業の文脈へそのまま当てはまるものではない。だからこそ、私たちが何を指してこの言葉を使うのかを、先に明確にしておきたい。

  • 専門家ネットワーク型。案件ごとに外部の専門家を集めて動員する。必要なときに束ね、終われば解ける。
  • 合議・イベント型。リーダー同士が議論する「場」そのもの。継続的な供給機能ではない。
  • LLM多視点型。AIに視点を広げさせる個人の思考支援。最終的に責任を持てるのは人間だけ、という前提に立つ。

VRIが指すのは、担当業界に常時張り付く「自社専用の常設調査機能」

私たちが言うバーチャル・シンクタンクとは、そのどれでもない。担当業界に常時張り付き、AIが情報を網羅・収集し、実在の専門家がそれを検証・読み解き・貴社の商談文脈へ翻訳して、継続的に供給する——そういう「自社専用の常設調査機能」を、設立も採用もせずに外から『持つように』使うサービスのことだ。既製(汎用・即時)のレポートでもカスタムリサーチ(特化だが遅く・高額)でも完全内製(人材コストの壁)でもない第三の道として、AIと専門家を束ね、貴社の文脈に最適化した読み解きを継続的に供給する。

ネットワーク型が「必要なときに専門家を集める」のに対し、私たちは離れない。担当業界に張り付き続ける——そこが、いちばんの違いだ。

海外で先行する用法とは、優劣ではなくレイヤーが違う、と言うのが正確だろう。専門家ネットワーク型は案件ごとの動員であり、LLM多視点型は個人の思考を広げる手法だ。VRIはそれらと近接しながら、「常設である」「自社専用である(複数社共有の汎用ではなく、貴社の顧客・稟議・競合の文脈に最適化する)」「AIの網羅と人間の検証という二層で成り立つ」「設立・採用なしに機能だけを内製的に保有する」という四点で、立っている位置が異なる。具体に降ろせば、火曜朝の商談前に、担当業界の今週の動きが3分で読める形で机に届く——その状態を、特定のベテラン個人の気力にではなく、仕組みとして常設で持つことだ。

この立て付けの根にあるのは、シンプルな役割分担だ。網羅と収集は速いAIに任せ、検証・読み解き・自社文脈への翻訳は人間が担う。なぜAI単独では危ういのか、調査会社やコンサル・AIツールと何がどう違うのか、そして誰がどう持つのかという各論には、本稿ではあえて踏み込まない。本稿はそれらを束ねる「定義のハブ」に徹したい。情報の負担と属人化という出発点については日本の営業生産性はなぜ低いのかを、AIが集めた情報を人間がどこまで検証すべきかという論点についてはAIリサーチはどこまで信頼できるかを、それぞれ参照してほしい。VRIの全体像と導入の流れは導入フローに、相談はお問い合わせから受け付けている。

AIで網羅 × 専門家で検証 × 自社文脈に翻訳して継続供給する

バーチャル・シンクタンクという語は、もともと「地理的に分散した研究者がデジタル技術で協働するネットワーク型の研究組織」を指す概念でもあります。私たちが「自社専用のシンクタンク」と呼ぶものは、それとは少し違う。担当業界に常時張り付き、AIが網羅・収集し、専門家が検証・翻訳して、それを継続供給する——名詞ではなく、この三つの動詞の束として定義したほうが正確です。順に見ていきます。

網羅・収集はAIに渡す

ある問いに対してソースを漏れなく集め、市場のシグナルを監視し続ける——この工程は、もはや人が抱える必要がありません。自律型のAIリサーチは数十のソースを自分でたどり、出典付きで一覧化してくれます。一晩で骨格が揃う網羅と速さは、ためらわず機械に任せる領域です。実際、大手の三菱総合研究所も、戦略決定のための情報基盤「インテリジェンス基盤」で、AIエージェントが市場の需要・供給の将来動向を網羅的に抽出・整理し、シナリオを左右するドライバーやその兆しとなるシグナルに分解する仕組みを2026年に提供開始しています(三菱総合研究所2026)。

検証と翻訳は人がやる

ただし、網羅の速さと真偽の担保は別の話です。専門家級の難問を集めた横断ベンチマークでは、ある時点のAIリサーチの正答率は26.6%にとどまりました。裏返せば最難問の七割前後を外していた計算になります(Fortune2025/海外ベンチマーク・一般則)。この数字はモデルの進化で速く動く一点の観測値ですが、「網羅の量と真偽の担保は別レイヤーだ」という構造そのものは変わりません。だから出典は別経路で人が当たる。検証がなぜ要るかの実証は、補助ピラー「AIリサーチはどこまで信頼できるか」(ai-research-expert-verification-virtual-think-tank.html)に委ねます。興味深いのは、買い手の側でも海外B2B買い手の69%が、AI生成のインサイトを検証するために営業担当者を頼ると答えていること(Gartner、2025年8〜9月にB2B買い手645名を対象に実施/海外調査・日本に直輸入はしません)。検証は、供給側の都合ではなく買い手の行動が求めているレイヤーなのです。

そして、検証済みの事実をそのまま渡しても商談は動きません。「だから貴社にとっては○○だ」と自社文脈へ意味づける翻訳の一行に、人の仕事があります。海外調査でも、情報の意味づけを助ける関与のほうが、事実をただ渡す関与より後悔の少ない取引につながりやすいことが示されています(Gartner2019/海外調査・一般則)。

ある時点のAIが外した最難問
約7割

専門家級の横断ベンチマークでの一点の観測値。数字は更新が速いが、網羅はAI・検証は人という分業の必然は変わらない(Fortune2025/海外ベンチマーク)

継続供給は仕組みで担う

一度作って終わりではなく、担当業界に常時張り付いて供給し続ける——ここが「持つ」と「単発で頼む」の分かれ目です。とはいえ、専任のリサーチアナリストを採れる時代ではありません。正社員が不足していると感じる企業は51.7%(帝国データバンク2024/日本)。だからこそ、続ける部分を人海戦術ではなく、AIと専門家の二層分業で「続く仕組み」にする。人の検証・一次接点を担う手立ては国内のエキスパートネットワークとして実在しており、絵空事ではありません。

競合が新プランを出した火曜の朝。誰が何を出したかを一晩で網羅するのはAI、それが基幹統計由来か孫引きかを一本遡って確かめ、提案書のどの一行を書き換えるかへ翻訳するのは人。これを毎週回すのが継続供給です。

網羅・収集はAI、検証・読み解き・翻訳は人間。これを担当業界に常時張り付けて継続供給する自社専用の機能——それが私たちの言う「バーチャル・シンクタンク」です。三菱総研の「インテリジェンス基盤」も、市場動向の網羅的な抽出・整理はAIエージェントが担い、注視すべきシナリオの判断には人が関わる設計を採っており(三菱総合研究所2026)、奇説ではありません。なぜAI単独では足りないのかという各論は補助ピラーへ、内製の手順は親ピラー「日本の営業生産性はなぜ低いのか」(sales-productivity-japan-virtual-think-tank.html)へ委ねます。

「機関を雇う」のではなく「機能を持つように使う」第三の道

「シンクタンク」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、野村総合研究所や三菱総合研究所のような、政策提言や大型調査を手がける重厚な研究機関だろう。一般にシンクタンクは調査・分析・提言を担う「研究機関」、コンサルティングはその知見を使って実行を支援する存在、と整理される。だから「自社専用のシンクタンクを持つ」と言うと、そんな大手に調査を発注するのか、あるいはどこかの会員になるのか、と受け取られがちだ。私たちが使うこの言葉は、そのどちらでもない。

従来、知を社外から得る手立ては、形こそ違えどすべて「機関や成果物を“雇う・買う”」という発想に立っていた。大手シンクタンクにカスタム調査を発注する。調査会社の会員になって既製レポートを引く。コンサルにプロジェクトを依頼する。いずれも、外部にある「機関」という名詞を契約する考え方だ。これに対してバーチャル・シンクタンクが提案するのは、調査・インテリジェンスという“機能”を、まるで自社が内側に持っているかのように継続的に使う、という発想の転換である。

「名詞を雇う」から「機能を持つように使う」へ

この転換は、決して突飛な話ではない。すでに経営の現場では、似た構図が先に起きている。フルタイムのCFOを採れない中小企業やスタートアップが、財務という高度な機能を社外CFO(フラクショナルCXO)として月額で“持つように使う”動きが広がっている。これはもともと海外発の考え方だが、日本の中小・スタートアップ文脈でも活用が広がりつつある(合同会社未来共創機構ほか各社サービスより)。社外CFOが財務を持つように使う機能なら、バーチャル・シンクタンクは「業界の読み解き」を持つように使う機能だ——その一点で、両者は同じ地平にある。

問うべきは「どの機関を雇うか」ではなく、「どの機能を、自社の内側に持つように使うか」だ。

もうひとつ、語そのものについて誠実に断っておきたい。「バーチャル・シンクタンク」という言葉は、海外では別の意味でも使われる。地理的に分散した専門家をネットワークでつなぎ、必要なときに知見を集める仕組みを指すこともあれば(米NSIの「ViTTa」などが知られる)、近年は大規模言語モデル(LLM)に複数の専門家視点を擬似的に演じさせる試みをそう呼ぶこともある(InfoQほか)。私たちが使う意味は、それらと重なりつつも一点で異なる。担当業界に常時張り付き、貴社の提案文脈に翻訳して継続的に供給する、自社専用の調査機能を指す。

  • 大手に発注する:精緻だが、相応に高く、数週間から数カ月を要することが多い。来週の商談には間に合わない。
  • 会員になってレポートを引く:既製ゆえすぐ手に入るが、「どの企業にも同じ」業界地図しか載っていない。
  • バーチャル・シンクタンク(機能を持つように使う):火曜の朝、営業が本当に欲しい「この顧客のこの稟議に効く一行」まで降りてくる。

火曜の朝、商談を控えた営業が欲しいのは、立派な業界レポートそのものではなく、目の前の稟議を一段前に進める一行だ。それは、外部の「機関」を雇う発想からはなかなか出てこない。機能を内側に持つように使うからこそ、貴社の文脈に翻訳された具体に降りられる。

そして第三の道の本質は、人を一人も採らずに、内製したのと近い果実を受け取ろうとする点にある。その内実はシンプルで、網羅と収集はAIが引き受け、検証・読み解き・貴社の提案文脈への翻訳は人間の専門家が担う、という二層の分業だ。なぜAI単独では危ういのかは「AIリサーチはどこまで信頼できるか」で、完全内製の壁や採用市場の数値、そして四つの選択肢の詳細な比較は親ピラー「日本の営業生産性はなぜ低いのか」で扱っている。ここではまず、「機関を雇うのではなく、機能を持つように使う」という第三の道の輪郭だけを、しっかり置いておきたい。

誰が・何のために持つのか — B2B営業/経営企画の使いどころ

「自社専用のシンクタンク」を持つと聞いて、まず頭に浮かぶのはおそらく専任の調査チームだろう。だが日本の多くの企業に、そんな部署はない。では誰が、どの場面でこれを使うのか。本セクションは、定義と対比の次に来る「誰が・何のために」を、私たちが現場で繰り返し出会う二つの典型——商談前の営業/営業企画と、業界を読み続ける経営企画/事業企画——に絞って具体化する。手順や体制の作り方には踏み込まない。それは作り方ページと、親ピラー「日本の営業生産性はなぜ低いのか」へ委ねる。ここで答えたいのは、「貴社の場合、誰のどの問いに効くのか」だ。

営業/営業企画 — 「商談前の翻訳」として持つ

買い手は、貴社の営業に会う前から、比較する相手をかなり絞り込んでいる。あるBtoB購買行動調査では、検討時に比較した製品・サービスの数が「3つ以内」だった買い手は81.4%にのぼり、2022年の68.1%から3年で13.3ポイント上がった(ITコミュニケーションズ/B2Bマーケティング『BtoB商材の購買行動に関する実態調査2025』)。同調査では検討段階の主な情報源として各種Webメディア(49.3%)や提供企業のWebサイト(35.4%)が挙がる一方、重視する情報源では提供企業Webサイト(21.1%)に続いてセミナーや展示会も上位に入り、リアル接点の重みもなお残る。

比較対象が3つ以内に締まるということは、その短いリストに入れるかどうかで勝負の大半が決まるということだ。だとすれば営業にとっての「何のために」ははっきりしている。会う前に想起され、比較の俎上に残り、与えられた数分を業界の言葉で語ること——つまり商談前ブリーフであり、アカウントの読み解きだ。重点アカウントの業界動向を常時ウォッチし続けるから、初回の数分で会社案内を読み上げる側ではなく、相手の業界に走る摩擦を相手の言葉で差し出す側に回れる。会える時間が痩せていく構造そのものの整理は親ピラー「日本の営業生産性はなぜ低いのか」に譲るが、結論は同じ方向を指す。

来週の商談、相手はすでに比較先を絞り終えているかもしれない。30分で会社案内を読み上げる側になるか、相手の業界の摩擦を相手の言葉で差し出す側になるか。

経営企画/事業企画 — 「常時の業界レーダー」として持つ

もう一方の典型は、意思決定の中枢に近いのに調べる手が薄い部門だ。経営企画部門の主管業務は中期経営計画の策定・設定・管理、単年度予算の編成・管理、特命プロジェクトの推進が柱で、過半が新規事業推進などにも関与する(日本総合研究所『経営企画部門の実態』874社調査、2016年。やや古い調査のため、ここでは最新の実態としてではなく役割の輪郭として参照する)。中計で3〜5年先の数値目標を引き、新規事業を評価し、競合を監視する——いずれも「常時、業界を読み続ける」仕事だが、それを少人数が兼務で抱えているのが実情だ。

そして経営企画のリサーチには固有の難しさがある。担当者が定常的に調査を行いながら、「必要な情報がタイムリーに得られるとは限らない」「新しい領域はそもそも調べることが難しい」「表面のデータ以上に深く調べられない」という声が共通して挙がる(Speeda『日本の経営企画部の理想と現実 2023』、定性的な課題整理として)。これは外部レポートを一冊買えば解ける性質のものではない。速く・浅く・誰でも引ける汎用情報が埋められないのは、まさに新規領域・深掘り・タイムリー性という、常時の張り付きと検証がいる部分だからだ。自社の文脈に継続的に当て続ける常設のレーダーが要る、ということでもある。

比較対象を「3つ以内」に絞る買い手
81.4%

検討時に比較した製品・サービスの数が3つ以内だった割合。2022年68.1%→2025年81.4%(13.3ポイント上昇)。比較が締まるほど、会う前に想起されているか、与えられた数分に何を持ち込めるかが受注を分ける。出所:ITコミュニケーションズ/B2Bマーケティング『BtoB商材の購買行動に関する実態調査2025』。

海外の補助線 — そして日本での「第三の道」

参考までに海外に目を向けると、市場・競合インテリジェンス(M&CI)の担当チームは5名以下の少人数が多く(21社中13社が5名以下、8社は1〜2名)、それでいて経営層・プロダクト・営業・マーケといった数百〜数千名規模の社内利用者を横断して支え、約3分の2がM&CIプラットフォームを使うとされる(Forrester『Five Findings About Today’s Market And Competitive Intelligence Programs』、海外のCI担当者調査)。少人数の専任機能が網羅と要約を回し、全社の意思決定に配る——この形は海外では珍しくない。ただしこれは21社規模の小サンプル調査であり、日本にそのまま当てはめるべきではない。

むしろ反転させたほうが日本の文脈には合う。日本では経営企画が兼務・人員薄で専任の調査機能を持ちにくく、営業も会う前の準備に手が回らない。だからこそ、社内に新たな部署を立てるのではなく、外部から内製的に「自社専用のシンクタンク」を持つという第三の道が現実的になる。営業も経営企画も、最終的に欲しいのは情報そのものではなく、自社の文脈に翻訳された読み解きだ。網羅と収集はAIに任せられても、その真偽を確かめ、貴社の勝ち筋に読み解き、現場の言葉へ翻訳するのは人間の仕事である。AIに任せる線引きの危うさは「AIリサーチはどこまで信頼できるか」で論じた。大きな成果を約束する話ではない。まずは、貴社のどの一人の・どの一つの読み解きから始めるか——その一点から考えていただきたい。

従来型シンクタンク・調査会社・コンサルとの違い

「シンクタンク」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、野村総合研究所や三菱総合研究所に代表される、官公庁や金融機関を母体とした研究機関だろう。その主たる役割は、政治・経済・社会を客観的・中立的に調査し、政策立案や意思決定の参考となる知見を蓄積・提言することにある。つまり成果物は、特定の一社のための武器ではなく、社会に開かれた公共財に近い。優れた知の蓄積だが、貴社の明日の商談や、貴社の業界だけに常時張り付くようには、そもそも設計されていない。

調査会社はどうか。依頼に応じて情報を収集・分析し、レポートとして納品する。商材が「人」ではなく「情報」である点はバーチャル・シンクタンクと近い。だが多くは単発・受託型で、貴社の文脈に合わせて継続的に最適化される前提ではない。手元に残るのは一冊の調査結果であって、回り続ける調査機能ではない。

コンサルティングファームは、課題の特定から解決策の立案・実行支援まで伴走する。近年はシンクタンクがコンサルやシステム開発まで担い、両者の境界は曖昧になりつつある(たとえば三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、シンクタンク機能とコンサルティングの双方を併せ持つ調査・コンサル会社として知られる)。ただ伴走力の高さは、プロジェクト単位の高コストと表裏でもある。日本のコンサル市場は二桁成長が続くとされ、2024年度は2兆3千億円規模・前年比17%増に達したとの推計もある(コダワリ・ビジネス・コンサルティング2025)。市場が伸びているということは、外部に頼るコストもまた上がっているということだ。終了後に知見が社内に残りにくいという論点は、『B2Bブランドの知識を長期資産にする』で扱う。

では、いっそAIに直接聞けばいいのか。網羅・収集・要約の速さでAIに勝てる人間はいない。だがそこに落とし穴がある。年商500億円以上の大企業で生成AI導入に携わった218名への調査では、技術的な課題として「ハルシネーション(誤情報生成)」への不安を挙げた人が59.2%で最多となり、効果的な活用に求められる要素としても「ハルシネーション対策」が55.5%で上位に挙がった(AI inside 2024)。総務省『令和6年版 情報通信白書』も、ハルシネーションは技術的対策が進められているものの完全に抑制することは難しく、利用者が出力の正確性を確かめる必要があると指摘する(総務省2024)。AIが書いたもっともらしい一文を検証せずに提案書へ貼れば、誤りごと相手に届いてしまう。網羅はAIが得意でも、真偽の確認は人間が引き受けるしかない。この線引きの詳細は補助ピラー「AIリサーチはどこまで信頼できるか」に譲る。

大企業のAI導入担当が抱える不安(AI inside 2024)
59.2% / 84.4%

技術的な課題として「ハルシネーション(誤情報生成)」への不安が59.2%で最多。何らかの技術的課題に不安を感じる人は84.4%にのぼり、効果的な活用に求められる要素では「セキュリティの強化」59.2%、「ハルシネーション対策」55.5%が上位を占めた。出所:AI inside株式会社『生成AI活用に関する実態調査』(年商500億円以上の大企業で生成AI導入に携わった218名、2024年実施)。網羅はAIに任せても、検証の工程を人間に残す根拠としてのみ引く。

ここで一つ、言葉の整理を正直にしておきたい。「バーチャル・シンクタンク」という名称は、すでに先例がある。日本経済新聞社が米CSISの協力で2011年に発足させた「日経・CSISバーチャル・シンクタンク」は、企業・官庁・大学などの中堅・若手フェローがインターネット上の電子会議で外交・安全保障やマクロ経済を議論する政策提言の試みだった(2017年に「富士山会合ヤング・フォーラム」へ改組)。同じ言葉だが、私たちの言う「バーチャル」は意味が異なる。あちらは多数の人間が遠隔で集う政策研究のネットワークを指し、私たちのそれは、AIが網羅・収集し、担当業界に張り付く専門家が検証・翻訳して、貴社一社に継続供給する“自社専用の調査機能”を指す。同じ名前で別の概念だと、最初に断っておく。

従来型は優れた知の蓄積であり、調査会社は精緻な一冊であり、コンサルは強い伴走者だ。どれが上という話ではない。ただ、貴社の業界に毎朝張り付き、商談に効く一行へ翻訳し続ける役割は、そのどれにも空席として残っている。

商談前夜を思い浮かべてほしい。明日の相手企業の直近IR、人事の動き、競合の値下げ——これをAIが網羅収集し、担当業界に張り付く専門家が「貴社が刺さる一文」へ翻訳して翌朝のデスクに置く。従来型シンクタンクの年次レポートでも、調査会社の単発納品でもない、継続供給の形だ。網羅・収集はAI、検証・読み解き・翻訳は人間という親ピラー「日本の営業生産性はなぜ低いのか」で示した二層分業を、貴社の外から内製的に回す。これを自前でゼロから組む手順は、『社内シンクタンクの作り方』に委ねる。本稿が示したいのは、従来の選択肢の隣に、第三の置き場所があるという一点である。

よくある質問

バーチャル・シンクタンクとは何ですか。

担当業界に常時張り付き、AIが情報を網羅・収集し、実在の専門家がそれを検証・読み解き・貴社の商談文脈へ翻訳して、継続的に供給する「自社専用の常設調査機能」を、設立も採用もせずに外から持つように使うサービスです。既製レポート(汎用・即時)でもカスタムリサーチ(特化だが遅く高額)でも完全内製(人材コストの壁)でもない第三の道として、AIと専門家を束ね、貴社の文脈に最適化した読み解きを継続供給します。核は「網羅・収集はAI、検証・読み解き・翻訳は人間」という二層の分業にあります。

従来のシンクタンクや調査会社と何が違うのですか。

役割と射程が違います。従来型シンクタンク(野村総合研究所・三菱総合研究所など)は政策提言や大型受託研究に強く、顧客の前提が政府・大企業に寄り、成果物は社会に開かれた業界一般の像に近いものです。調査会社は多くが単発・受託型で、手元に残るのは一冊の調査結果であって、回り続ける調査機能ではありません。バーチャル・シンクタンクは優劣ではなくレイヤーが異なり、貴社一社の文脈に常時張り付いて、商談に間に合う速さで読み解きを継続供給する点で立ち位置が分かれます。

AIに直接聞けば十分ではないですか。専門家はなぜ必要なのですか。

網羅・収集・要約の速さはAIに任せられますが、真偽の担保は別レイヤーだからです。専門家級の難問を集めた横断ベンチマークでは、ある時点のAIリサーチの正答率が26.6%にとどまり、最難問の七割前後を外していた計算になります(Fortune2025/海外ベンチマーク、数値は更新が速い一点の観測値)。買い手の側でも、海外B2B買い手の69%がAI生成のインサイトを検証するために営業担当者を頼ると答えています(Gartner、2025年にB2B買い手645名対象/海外調査・日本に直輸入はしません)。出典を一本遡って確かめ、貴社の文脈へ翻訳するのは人間の仕事です。

費用や運用は「単発の調査依頼」とどう違うのですか。

発想が「機関や成果物を雇う・買う」から「機能を持つように使う」へ転換します。外部委託は一度きりでも相応の費用がかかり、市場調査の手法別相場ではWebアンケートで10〜20万円、会場調査などは数百万円規模に及ぶ例もあります(比較ビズまとめ2024/事業会社の相場まとめ記事のため幅で受け止めるのが正確)。相談のたびに見積もりと稟議がはさまる単発委託は、担当業界に常時張り付いて毎週問いを投げる使い方とは噛み合いません。バーチャル・シンクタンクは、続ける部分をAIと専門家の二層分業で「続く仕組み」にする点が異なります。

どんな企業の、誰が使うものですか。

専任の調査チームを持たない一般のB2B企業が主な対象で、典型は二つです。一つは営業・営業企画が「商談前の翻訳」として持つ使い方。買い手は会う前に比較相手を絞り込んでおり、比較対象が3つ以内だった買い手は81.4%にのぼります(ITコミュニケーションズ/B2Bマーケティング2025)。もう一つは経営企画・事業企画が「常時の業界レーダー」として持つ使い方です。正社員不足を感じる企業が51.7%(帝国データバンク2024)という環境で専任を採るのではなく、外から内製的に機能だけを持つ――そういう第三の道として使われます。

/ 図解 — VRI ENGINE

バーチャル・シンクタンクの全体像

情報ソースを AI が集約・構造化し、各領域の専門家が検証・解釈して再構成。使えるレポートとして営業・経営企画へ届き、ナレッジが循環する——この一連の機能を貴社の中に持つのが「自社専用のシンクタンク」です。

一次情報の取り込み AIによる集約・専門家レビュー 出力とナレッジ循環

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